
目次
- 不適切保育の実態ー現場でなにが起きているのか?
- 不適切保育の原因はどこに?
- 保育士の配置基準の見直しとは?
- 保育士の配置基準見直しで期待される4つの改善ポイント
- 保育士の配置基準の見直し相乗効果となる自治体の取り組み
- 保育士の配置基準の見直しにより「不適切保育のない保育環境」の第一歩に
- おすすめ記事
保育現場で働く皆さんにとって、子どもたちが安心・安全な環境で成長できる場を提供することは、最優先の課題です。
しかし現実には、保育士の負担過多や人手不足 から生じる「不適切保育」の問題が広がっています。
そこで注目されているのが、2024年度に見直された「保育士配置基準」です。
本記事では、不適切保育の現状や原因をデータとともに掘り下げ、配置基準の見直しが保育の課題解決にどのように貢献できるのかをわかりやすく解説します。
不適切保育の実態ー現場でなにが起きているのか?
まず、「不適切保育」とは何を指すのか、そしてどのような現状がその背景にあるのかを明らかにしていきます。
厚生労働省や自治体が公表した報告より、以下の3つが主なカテゴリとして挙げられます。
1. 子どもの安全確保が不十分
保育士が多忙で目が届かず、事故を防げないケース
- 実際におきた事例:2024年8月6日、神奈川県内の保育施設で1歳児が手作りの台から落下し、左鎖骨骨折の重傷を負う事故が発生しました。
- 2023年度、全国の保育施設で発生した重大事故は 2,772件 に上ります(こども家庭庁)。
2. 保育士の業務過多
こどもと関わる時間以外の業務が多く、充分な保育環境や準備に時間が確保できない現状があります。 2025年1月30日に発表された最新の調査結果によると、行事業務を行う保育士の9割以上が負担を感じており、2023年と比較して14.9ポイント上昇しています。
3. 不適切な言動や虐待
保育士の過労やストレスが要因となり、不適切な対応が発生。
- 具体例:2023年には静岡県の保育施設で、保育士による「つねり」や「暴言」が大きく報道され、社会問題となりました。
- データ:こども家庭庁が実施した実態調査の結果によると、2022年4月から12月の期間において、不適切な保育の中で、虐待と確認された事案の件数は132件でした。
不適切保育の原因はどこに?
なぜ、このような不適切保育が起きてしまうのでしょうか。
最も大きな原因として挙げられるのが、保育士の過重労働 および人手不足です。
これにより、次のような問題が顕著化しています。
- 子ども一人ひとりへの注意が行き届かない
- 長時間労働による保育士の疲弊
- 時間が不足し、安全確認や教育活動が形骸化する
データで見る保育士の現状
人手不足:厚生労働省の最新データによると、2024年3月時点で保育士の有効求人倍率は2.49倍となっています。これは全職種の平均有効求人倍率1.35倍と比較して高い水準となっています。
離職率:保育士の年間離職率は 9.3%(他業種平均より高い傾向)。

保育士の配置基準の見直しとは?
保育士の配置基準の歴史
1948年
初めての配置基準が制定されました。
この基準では、1歳児以下の子ども10名に対して保育士1名、2歳以上の子ども30名に対して保育士1名というものでした。
1965年
改定が行われ、2歳児以下の子ども8名に対して保育士1名、3歳以上の子ども30名に対して保育士1名という基準に変更されました。
1969年
再び改定が行われ、1歳児以下の子ども6名に対して保育士1名、3歳以上の子ども30名に対して保育士1名という基準に変更されました。
1998年
乳児(0歳児)の配置基準が見直され、子ども3名につき保育士1名という基準が導入されました。
また、1~2歳児の基準も見直され、子ども6名につき保育士1名という基準が適用されるようになりました。
乳児(0歳児):子ども3名につき保育士1名
1~2歳児:子ども6名につき保育士1名
3歳児:子ども20名につき保育士1名
4歳以上:子ども30名につき保育士1名

画像引用:児童福祉施設最低配置基準(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1006-7e_0005.pdf
2024年
最新の改定が行われ、4・5歳児の配置基準が「子ども30人につき保育士1人」から「子ども25人につき保育士1人」に、3歳児の配置基準が「子ども20人につき保育士1人」から「子ども15人につき保育士1人」に改正されました。
乳児(0歳児):子ども3名につき保育士1名
1~2歳児:子ども6名につき保育士1名
3歳児:子ども15名につき保育士1名
4歳以上:子ども25名につき保育士1名
保育士の配置基準の見直しがもたらす改善とは?
2024年度から「保育士配置基準」が変更されることで、1人あたりが担当する子どもの人数が次のように減少します。
4・5歳児:1人あたり「30人→25人」に減少
3歳児:1人あたり「20人→15人」に減少
これにより、保育士全員が抱える負担を軽減し、より質の高い保育を提供できると期待されています。

保育士の配置基準見直しで期待される4つの改善ポイント
1.保育士の負担軽減でストレスが低減
例:従来1人で20人以上の子どもを見る必要があった環境が改善され、1人ひとりに向き合う時間が増えることで、業務量の軽減と安全性の向上が期待できます。
2.事故リスクの軽減
例:日常の監視が手厚くなることで、転倒やケガといった事故発生率の減少が見込まれます。2023年度の重大事故件数(全国 2,772件件)が大幅に減少することが目標です。
3.保育の質が向上し子どもの成長を支援
例:個別対応の時間が確保され、「〇〇ちゃんの文字の練習」や「△△ちゃんとの信頼構築のための対話」など、子どもの成長段階に合わせた関わりが実現しやすくなります。
4.個別対応がよりスムーズに
例:アレルギー対応や特別支援が必要な子どもにも十分な対応が可能に。子どもの健康管理や心理的ケアの質が格段に向上します。

保育士の配置基準の見直し相乗効果となる自治体の取り組み
配置基準が全国で見直される中、自治体ごとの独自の取り組みも重要なパートナーとなっています。以下はその一例です。
- 東京都:「保育士の給与や処遇を改善するための制度」により、保育士の定着率向上と業務負担軽減を目指す。
- 神奈川県横浜市:独自に認可外施設でも配置基準を厳格化し、安全と教育の水準を底上げ。
地域差の課題
ただし、新基準が効果を最大限発揮するためには、地域ごとの状況に応じた柔軟な対応も重要です。
- 都市部:保育ニーズが高く、新しい保育士の配置基準が即座に結果を出しやすい。
- 地方部:保育士の確保が難しく、見直しがサービス提供に直結しにくい。運用に向けた補助金や支援策が必須です。
保育士の配置基準の見直しにより「不適切保育のない保育環境」の第一歩に
2024年度の「保育士の配置基準」の見直しは、子どもたちと保育士の双方にとって重要な転機となるでしょう。不適切保育が起きる原因に直接的に向き合うことで、次のような効果が期待されます。
- 安全性と監視体制の強化
- 保育士の負担軽減による職場環境の改善
- 子ども一人ひとりに寄り添う質の向上
ただし、基準変更のみでは課題をすべて解決できないのも事実です。
既に何年も前から配置基準以上の保育士を配置している保育園も多く、配置基準が改善されたとしても、保育環境が大幅に改善されるとは現行のままでは言い切れません。
今後は、より実行力のある施策や、自治体・国レベルでの支援が求められるでしょう。
不適切保育をゼロにするためには、みなさんの意見や現場からの声が非常に大切です。
共に子どもが安心して成長できる保育環境を目指していきましょう!

参考
保育の安全研究・教育センター/9-2. 『保育者のための「ハザード」教室』に合わせた事例集
こども家庭庁/令和5年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表について
PR TIMES/【行事業務を行う保育士に定点比較調査】9割以上が行事業務に「負担」を実感、2023年より14.9ポイント上昇(2025年1月30日)
こども家庭庁/昨年来の保育所等における不適切事案を踏まえた今後の対策について(令和5年5月12日)
別紙1昨年来の保育所等における不適切事案を踏まえた今後の対策について
別紙2保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン
こども家庭庁・文部科学省/「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について(令和5年5月)
虐待等の未然防止に向けた保育現場の負担軽減と巡回支援の強化について(令和5年5月12日)
社会福祉法人全国社会福祉協議会全国保育士会/「人権擁護のためのセルフチェックリスト」を用いた保育の振り返りとりまとめ(令和5年5月12日)
厚生労働省/保育士の有効求人倍率の推移(全国)
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